両親へのカミングアウト~子供への愛情は十分でしたか~

暖簾をくぐって、席に着いた
飲み物を聞かれて、ノンアルコールビールを注文する
今日で一か月目の禁酒
お酒を飲まなければ、僕の決意も少しは伝わるだろうか

料理が運ばれて、
食卓が少し華やいだ
焼きナス、モツの味噌煮、サンマの塩焼き
父親が好きそうな料理が並ぶ
両親はどういう気持ちで、今お酒を飲んでいるのだろうか

世間話が続いた
僕も世間話で応じた

今日は、僕からLGBTな話を切り出すのは、
絶対に止めようと思っていた。
幾らでも大人の対応を取ってやる
何処からか沸いてくる、変な意地
口火を切ったのは父親だった。

「俺は」

父親は続けた

「子供の幸せを願っている。今こうして顔を合わせても、お前の事は可愛いと思っている。だから…この前のカミングアウトは受け入れる」

ありがとう
けれどもう問題は、
貴方たちがカミングアウトを受け入れるかどうか何て事は、
通り過ぎているんだ。

「時代は変わっているし、俺たちも理解しているよ」

どうもありがとう
けれど、そんな事はもはや問題ではない。
問題は…、本当の問題は…。

貴方たちが自分自身の人生を振り返って…
子供に愛情を掛けられなかった事を反省できるかどうか
夫婦の間に依存関係はあったが、愛情関係は無かった事を認められるかどうか

そこに、出発点は有る筈だよ
そこに気が付ければ、残り少ない人生を、愛情で彩られた物に変られるかも知れない
そんなチャンスを得ることが出来る
カウンセリングの先生の話を思い出して

親が歩き方を教えるから、子供も歩けるようになる
親が英語を話せば、子供も英語を話すようになる
親が人を愛す方法を教えれば、子供も人を愛せるようになれる

貴方たちの息子は、両親から愛されていると思えなかった
だから、ゲイである事を43年間カミングアウト出来なかった
本当の自分を表せば、周りの人が皆去って行くと思い込んでいた


けれどそれは仕方がない
父親は…実母から棄てられた人だから
母親は…幼いうちに実母を無くしているから

 

父親の演説は続いた。

「俺は、俺の代から、一から家族を作ろうと思ったんだ。子供の頃は継母から虐められて、辛かった…。だから、母親も継母も関係ない家族を、新しく作ろうとしたんだ」


…そんな事無理だよ、父さん
カウンセリングの先生が言う事、全然分かってくれないんだね…。


父さんの実母が、父さんに掛けた呪いは、ばっちり肉のサシの様に食い込んで…
ほら、僕にしっかりと伝わっているじゃないか


しかし、これ以上この問題を突き詰めても、お互いに感情を拗らせるだけ
頑張ったねお父さん、お母さん
けれど、これ以上はきっと、理解できないだろうね…。


両親の姿を見てそう判断した僕は
LGBTのカミングアウトに理解を示したことで満足すべきと判断し…、
これからも親子で支えあって行こうと、前向きな話をして…、
この会食の幕引きとした